第20回日本認知療法・認知行動療法研修会(ワークショップ)

 第19回日本認知療法・認知行動療法学会では、様々なカテゴリーにおいて、必要基礎知識の普及と情報の共有を目的とした「第20回日本認知療法・認知行動療法研修会(ワークショップ)」を開催いたします。
 このプログラムには分野を問わず多くの方々にお集まりいただきたく、ご案内をいたします。
 日本認知療法・認知行動療法学会の会員でない方、またワークショップ単独での受講者も歓迎しております。
 こちらのワークショップへの受講申込はオンラインによる事前登録制です。定員に達し次第、締め切りとさせていただきます。
 お席の空き状況によっては学会会期中の8月30日(金)・31日(土)・9月1日(日)にご参加も受け付けておりますが、先着順となりますので、お早めの事前申込みをお勧めいたします。
 みなさまのご参加を心よりお待ちしております。


締め切りました。

参加費

1セッションあたり10,000円

ワークショップ残席数(8月23日事前登録締切時点)

9月1日(日)午前開催
WS01認知療法・認知行動療法の基礎固め82名
WS02成人期ADHDに対する認知行動療法57名
WS03コンパッション・フォーカスト・セラピー31名
WS04実践!双極性障害のIPSRT(対人関係・社会リズム療法)入門24名
WS05セルフケア行動の促進・行動変容に活かす認知行動療法26名
WS06マインドフルネス-概論と実践-102名
WS07不眠の認知行動療法48名
WS08こころのスキルアップ教育 模擬授業 60名
9月1日(日)午後開催
WS09認知療法・認知行動療法スキルアップ:
面接動画を用いワークショップ
117名
WS10ストレスチェック・1次予防に役立つ簡易型CBT
-ストレスへの気づきと対処の秘訣!-
99名
WS11公認心理師に役立つ認知行動療法の理論と技法106名
WS12統合失調症のCBT22名
WS13ギャンブル障害の認知行動療法40名
WS14スキーマ療法95名
WS15不安障害に対する認知行動療法23名
WS16認知症家族介護者に対する認知行動療法28名

 

WS01 ワークショップ1

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第2会場[301 多目的ホール]

認知療法・認知行動療法の基礎固め

[オーガナイザー]
 大野  裕(大野研究所)
 中川 敦夫(慶應義塾大学医学部)
 菊地 俊暁(慶應義塾大学医学部)

 認知療法・認知行動療法に対する関心は高いが、それだけに誤解されることも少なくない。認知行動療法は問題解決的アプローチであり、考えを修正するのは目的ではなく、問題に対処するための手段である。また、認知ばかりに目を向けて相談者の人となりを理解することを怠ったり、人間的で支持的な関係性に目が向かなくなったりすることもある。本ワークショップでは、こうしたことを含めて、認知行動療法で誤解されやすい点に触れつつ、認知行動療法のエッセンスについて動画とロールプレイを交えながら紹介することにしたい。本ワークショップは、認知行動療法の初心者が認知行動療法の第一歩を学ぶ機会となるだけでなく、経験者がもう一度基本に立ち返りさらなるスキルアップを目指すきっかけを提供できるものにしたい。
 ワークショップの進め方であるが、まず認知行動療法の基本的な考え方やよくある誤解について解説し、認知行動療法で重視されるソクラテス的問答や協働的経験主義について研修する。続いて、認知行動療法の基本的な面接構造である導入パート、相談・対処パート、終結パートについて動画やロールプレイを織り込みながら研修する。
 導入パートでは、気分をチェックして前回のセッションのポイントと前回のセッション以降の生活のなかで起きた重要な出来事、そしてホームワークを振り返り、アジェンダを設定する。ちなみに、アジェンダはスキルではなく、患者が解決しなくてはならない心理的課題に関連した具体的な出来事である。
 相談・対処パートでは、患者の心理的課題に関連した認知または行動に焦点を当てながら、アジェンダ(現実の問題)に対処するのに適したスキルを柔軟に選択し、患者が問題に取り組むのを手助けして、そこで使ったスキルについて簡単に説明(心理教育)を行う。
 最後に終結パートに5分から10分を使って、セッション全体を振り返り、話し合った内容に関連したホームワークを決め、セッション全体に対して患者からフィードバックを得る。最後に、インターネットを活用した認知行動療法の学習のポイントについて解説する。

参考図書
大野裕、田中克俊:保健、医療、福祉、教育に生かす 簡易型CBT実践マニュアル、ストレスマネジメントネットワーク、2017

WS02 ワークショップ2

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第3会場[601 講義室1]

成人期ADHDに対する認知行動療法

[オーガナイザー]
中島美鈴(九州大学大学院人間環境学府/肥前精神医療センター)

 近年「自分はADHD ではないか?」と精神科を受診する人が急増している。我が国の有病率は2.09%(内山ら,2012)であるが,実際にはもっと多くの未診断者がいるといわれており,はっきりと診断のつく者から、グレーゾーンに位置しているもののそれが不適応の一因となっている者まで、程度の差こそあれ、成人期のADHD は臨床上の大きな課題となっている。
 成人ADHDに対する治療では,各国の治療ガイドライン(NICE,CADDRA,BAP,DGPPN)では,共通して薬物療法に加えて,もしくは代わりに,「心理教育」や「認知行動療法」(機能障害に対処するもの)がおおむね共通して勧められている。実際,薬物療法の奏効しない成人ADHD患者は20~50%存在し(Wilens, Spencer, & Biederman, 2002),追加の治療が求められている。
 成人ADHDの心理社会的介入は,2010年頃から大規模な効果研究が報告されるようになるなど,まだ始まったばかりの分野である。2018年4月の発達障害専門プログラム加算という診療報酬点数改訂の流れが追い風となり,今後はますます成人ADHDに特化した認知行動療法プログラムの必要性が高まるであろう。
 本ワークショップでは,成人ADHDの神経心理学的基礎とアセスメント,ADHDの認知行動療法のエビデンス,Sonuge-bark et al (2010)の三重経路モデルを中心としたケースフォーミュレーションおよび心理教育のあり方,実行機能障害への対処方法の獲得を中心とした個人認知行動療法の進め方,効果的なホームワークの設定の工夫,集団認知行動療法の進め方についてご紹介し,簡単なロールプレイを実施する。

WS03 ワークショップ3

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第4会場[601 講義室3]

コンパッション・フォーカスト・セラピー

[オーガナイザー]
 浅野 憲一(目白大学人間学部心理カウンセリング学科)

趣旨・狙い
 コンパッション・フォーカスト・セラピーは、恥や自己批判といった心理的問題を解決するために、イギリスのPaul Gilbert博士によって開発された心理療法である。統合的な心理療法であり、進化心理学、社会心理学、発達心理学、仏教心理学、神経科学などから影響を受けている。しかし、用いられている技法の多くは認知行動療法の知見が援用されていることから、International Journal of Cognitive Therapy誌にて特集号が組まれたり、CBT Distinctive FeaturesやA Self-Practice/Self-Reflection Workbook for TherapistsといったCBTの書籍シリーズで取り上げられるようになっている。
 コンパッション・フォーカスト・セラピーでは、恥や自己批判に苦しむ人々の心理的な苦しみは、安心や安全といった感情の得がたさによって生じていると考える。安心や安全といった感情の背景に特定の情動制御システムの存在が明らかになっており、愛着システムや気持ちを落ち着かせる能力、幸せを感じるといった能力と情動制御システムが関連することが示唆されている。
 そのため、コンパッション・フォーカスト・セラピーでは、安心や安全の背景にある情動制御システムにアクセスすることが難しい人々は、高い恥と自己批判を経験し、その感情と関連した脅威の情動制御システムが働いてしまう状態に陥っていると仮定する。そして治療では、コンパッション(思いやり、慈悲)を用いて、その問題を解決し、様々な心理的問題の改善を目指す。
 コンパッション・フォーカスト・セラピーを実践するにあたり、Kolts et al. (2016) はその治療要素を、慈悲的な理解、マインドフルな気づき、慈悲の実践、治療的関係性の4つの側面があるとし、これらが多層的に作用するとしている。慈悲的な理解は、Not Your Faultというメッセージを神経科学や進化心理学の知見を援用しながら心理教育していく。マインドフルな気づきの側面は、様々なエクササイズを通してクライエントが自分自身の注意、思考、感情、行動、身体といった側面に気づきを高める支援していくことを指す。慈悲の実践では、イメージエクササイズや行動実験を通して、コンパッションを高めるための様々な取り組みをしていく。最後に、治療的関係性であるが、治療者はコンパッションを持った態度でクライエントを支援し、クライエントが自分の問題を探求し、変化を起こしていくための安全基地として機能する必要がある。加えて、ここまで述べた慈悲的な理解、マインドフルな気づき、慈悲の実践を、治療者自身が治療内で示すことでモデルとなることが求められる。
 本ワークショップでは、上記の4つの要素を踏まえ、コンパッション・フォーカスト・セラピーを概説し、主要なエクササイズを紹介する。また、実践上の留意点などを紹介する。

WS04 ワークショップ4

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第5会場[705 講義室5]

実践!双極性障害のIPSRT(対人関係・社会リズム療法)入門

[オーガナイザー]
 宗  未来(東京歯科大学)

 双極性感情障害は、適切な薬物アドヒアランスでも、2年で6割の再発が報告されるなど、薬物療法だけでの治療の難しさが指摘されている。双極性感情障害に関する諸外国の主要指針では、認知行動療法、家族焦点化療法と並び、対人関係・社会リズム療法(IPSRT)の薬物療法への付加による、抗うつ効果および再発予防効果が示されている。
 IPSRTは、米国のFrankらが開発した行動的介入である「社会リズム療法(SRT:Social Rhythm Therapy)」と戦略的な対人スキル習得を目指す「対人関係療法(IPT:Interpersonal Psychotherapy)」を組み合わせた、統合的な精神療法である。前者の社会リズムとは、精神状態の安定に不可欠な1) 規則的な生活リズムと2) 安定した人間関係という、ふたつの異種の要素を一元化した指標である。実際、介入で社会リズムが安定化されることで症状や予後は大きく改善する。双極性感情障害に限らず、生活リズムの一定化が精神症状の安定に寄与することは知られ、多くの臨床家によって毎日の週間活動記録がモニタリングに有効活用されている。しかし、24時間の生活記録は思った以上に患者には負担であり、またチェックする側の治療者も患者の記載した豊富な情報を限られた診療時間で必ずしも活かしきれているとは言えない。社会リズム療法では、5時点だけのチェック(離床、他者へのファーストコンタクト、主活動の開始、夕食、就寝)を安定化させるだけで、同等の効果が得られるという実証検証に基づき、対人刺激という要素を加味した上でのハンディな生活記録の評価を可能とした。さらに、社会リズム療法は、双極性だけではなく単極性の大うつ病でも無作為化比較試験(RCT)で効果が示されており、極めて臨床実践的な方法論である。
 一方で、生活リズムの安定に比べて、対人関係の安定化はしばしば容易ではない。そこで白羽の矢が立ったのが、うつ病治療において認知行動療法と並んで標準的治療とされるIPTで、社会リズム療法に統合されてIPSRTが誕生した。IPSRTは、双極性感情障害のうつ状態や再発予防に効果が実証され、また特に2型であれば、国際的には双極性感情障害のうつに対する標準治療であるクエチアピンと効果が同等であることがRCTで示され、単独での双極性感情障害への効果が唯一、実証された精神療法でもある。 
 しかし、我が国ではIPSRTは殆ど普及していない。申請者の宗は、2017年より社会リズム療法およびIPSRTの開発元である米ピッツバーグ大学医学部より公式スーパービジョンを受け続けており、現在はピッツバーグ大学のカスケード方式での指導下で名古屋市立大学、慶應義塾大学、杏林大学の精神科医に対してもスーパービジョンを行っている。本ワークショップでは、それらの経験を踏まえた上で、前半を国内では学ぶ機会のない殆どない社会リズム療法について、実際にシートに書き込み、実証例について一問一問形式の演習形式で行い、後半はこれまで座学中心であった対人関係療法について積極的に参加者同士のロールプレイを取り入れた形で行うことで、明日から生かせるIPSRTの学びの場としていきたい。

WS05 ワークショップ5

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第6会場[706 講義室6]

セルフケア行動の促進・行動変容に活かす認知行動療法

[オーガナイザー]
 小林 清香(埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック)
 藤澤 大介(慶應義塾大学医学部医療安全管理部/精神・神経科)
 巣黒慎太郎(一般財団法人住友病院臨床心理科)

 身体疾患領域での認知行動療法の実践、特に食事習慣や服薬管理などのセルフケア行動の促進に焦点をあてます。慢性身体疾患では、食事・運動・喫煙・飲酒・服薬など、多くのセルフケア行動が、疾患経過や予後に大きな影響を与えます。しかし、日常生活の中でそれまでの習慣を改めたり、新たな行動を獲得したりすることは容易ではありません。多くの慢性身体疾患では、早期には自覚症状が無く、一時的に行動を変容したとしてもその成果を実感しにくいという問題があります。
適切なセルフケア行動の遂行のためには、疾患に関する正しい知識を持つこと、疾患とその経過を自分のこととして認識すること、自分の取るべき行動が具体的に考えられること、行動を阻害するような要因に対処できること、そして、行動を変え、それを維持するための動機を持つことが非常に重要です。また、これらを促進する協同的な関係を築く援助者側の姿勢も欠かせません。患者さんが主体的にセルフケア行動の変容や獲得に取り組み、それを続けていくための援助に役立てることのできる認知行動療法の視点と技法を学びます。

 以下のようなテーマを取り上げながら、ロールプレイやディスカッションを通じて、具体的な支援方法の実際を学びます。

1)行動変容に関する基本の概説
  慢性疾患における適切なセルフケア行動を困難にする背景
  行動変容への準備性(多理論統合モデル:変化のステージとプロセス)
  適切な行動を促進する認知的要因(重要性の認識と自己効力感)
2)セルフケア行動の動機づけの促進
  セルフケアの意義を扱う(価値)
  損益分析
3)セルフケア行動の実行可能性を上げる支援
  行動目標設定における工夫(SMART goal)
  実行を妨げる要因への対処

 生活習慣病、食事や運動療法が必要な身体疾患(糖尿病や慢性腎臓疾患など)、精神疾患患者さんの生活習慣の改善(運動、栄養管理、禁煙、服薬アドヒアランスなど)、健康な方の健康関連行動の向上などにも応用可能な内容です。日常の実践に、活かしていただければ幸いです。
 参加に際して、当該領域での経験は不問です。

WS06 ワークショップ6

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第7会場[302-303 講義室]

マインドフルネス-概論と実践-

[オーガナイザー]
 佐渡 充洋(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)

 マインドフルネスの概念を取り入れた介入には様々なものがあるが、精神医学や臨床心理学の領域では、マインドフルネスと認知行動療法の手法が統合された「マインドフルネス認知療法」が最も馴染みのある介入技法かもしれない。マインドフルネス認知療法とは、「意図的に、今この瞬間に、価値判断をすることなく注意を向けること」と定義されるマインドフルネスの技法を用いることで、不安や抑うつの原因となる思考の反芻を抑制し、気分の改善をはかる精神療法のひとつである。
 マインドフルネス認知療法のセッションでは、瞑想やヨガといったマインドフルネスの技法を中心に練習していく。通常10-20人程度の集団で、1回2時間のセッションを合計8回実施する。この集団精神療法の前半では、呼吸や体の感覚に注意を向け、そのままそこに注意をとどめることから訓練を開始し、後半では、思考や気分をそのままとらえる「脱中心化」の技法を身に付けていく。従来の認知行動療法が認知の変容を積極的に扱うのに対して、マインドフルネス認知療法では、思考をそのままとらえるだけで、認知の修正を積極的に扱うわけではない。しかし、どちらの精神療法でも「脱中心化」が治療上重要な役割を果たしている点が、共通点としてあげられる。
 マインドフルネス認知療法において中核的な役割を担うマインドフルネスについては、近年、その認知度の向上に伴い、関連書籍も数多く出版されてきている。よって、それらを通じて、マインドフルネスに対する理解を深めることが可能となってきている。しかし、その本質が「実践を通じた気づき」にある以上、体験の伴わない理解だけでは不十分なのもまた事実である。
 そこで、このワークショップでは、参加者に様々な瞑想のエクササイズを実際に体験してもらい、その体験を参加者や講師との間で共有していく。こうした「実践を通した気づき」のプロセスから、マインドフルネスそのものへの理解を深めていく。さらには、こうした体験と講義などから、マインドフルネスのどのような点がうつや不安といった精神症状の改善に効果を発揮するのかといった、精神療法における効果発現の機序についても理解を深めていく予定である。

WS07 ワークショップ7

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第8会場[501 講義室1]

不眠の認知行動療法

[オーガナイザー]
 渡辺 範雄(京都大学大学医学研究科社会健康医学系専攻)
 香月富士日(名古屋市立大学看護学部看護学科)

 不眠の問題は、精神疾患だけではなく、身体疾患や日々の生活と切り離せないものです。特に、日本では5人に1人が不眠を持っていると言われます。一般社会での関心も非常に高く、睡眠によいとされる様々な方法が日々紹介されています。
 しかしそのなかでも、不眠の認知行動療法や短期行動療法は、各国のガイドラインでも推奨されている精神療法です。特徴として、他の精神疾患を対象とした治療よりも比較的短期で行うことがあり、また治療要素として睡眠日記、不眠の認知行動モデルの共有、睡眠衛生教育、刺激コントロール法と睡眠制限法を柱とした睡眠スケジューリング、追加要素として認知療法、リラクゼーション、マインドフルネス要素があるなど、他の疾患を対象とする認知行動療法とは異なります。特に行動療法的な治療要素では、患者さんに一時的な心理的・身体的負担をかけることがあり、患者さんに治療へのモチベーションを維持してもらうには一層の工夫が必要です。
 私たちのグループでは、不眠症に対する認知行動療法を基礎として比較的容易に実施可能なものへ改訂した短期睡眠行動療法を開発し、特に薬物治療後も不眠が残存したうつ病患者に対して、その効果を無作為割り付け対照試験で検討しました。結果としてこの治療は、不眠に対してもうつに対しても臨床的・統計学的有意に良い効果をもたらすことが分かり(J Clin Psychiatry, 2011)、またQOL(J Clin Sleep Med, 2014)・費用対効果費(Psychiatry Clin Neurosci, 2014)も有意に優れていることを確かめました。
 このワークショップでは不眠の評価法や成り立ち、不眠の認知行動療法の治療要素当の総論、不眠の認知行動モデル、睡眠日記、睡眠衛生教育、睡眠スケジューリングといった治療技法の各論までを紹介します。これらは単なる講義にとどまらず、いかに患者さんのモチベーションを上げるか、治療効果を維持するかといった実践的技術に関して、ロールプレイなどの体験を通じて学んでいただきます。

WS08 ワークショップ8

2019年9月1日(日)9:00-12:00
第9会場[502 講義室2]

「こころのスキルアップ教育」模擬授業

[オーガナイザー]
 平澤 千秋(専修大学附属高等学校)

 「こころのスキルアップ教育」は、生徒一人一人が自分らしさを生かした学校生活を送れるような手助けをしようと、認知行動療法教育研究会によって作成(2011年)された教育プログラムである。認知行動療法のエッセンスを取り入れた授業によって、生徒たちはうまくいかない時にもしなやかに考える力を身につけ、思いやりの気持ち育んでいく。それは学校が抱える諸問題の解決にもつながり、ひいてはよりよい学びの場をつくっていくことにもなる。その実現のために、学校で担任の先生が授業で行うことを理想として作成された。
 プログラムの内容は主に①考え方を上手に切り替える。②問題を解決する力をつける。③コミュニケーションスキルを学ぶ、で構成されている。現在、小中高大で実践されているが、その担い手や方法・目的は様々である。具体的には本大会のシンポジウム≪何を使ってどう教えるか―「こころのスキルアップ教育」学校での工夫―≫で取り組み事例を紹介することになるが、いじめ防止の授業・部活動・総合的な学習の時間・特別支援などで試みが進んでいる。そしてまた、目前に迫った戦後最大といわれる教育改革では、知識技能の習得に重きを置いたこれまでの教育から、答えのない問題に主体的・共同的に取り組んでいくプロセス、資質・能力の育成へと重点が移ってきている。(アクティブ・ラーニングはそのわかりやすい例と言える。)そうした中で、資質・能力と重なる認知(情報処理)の部分を、教師が授業で扱うことができるプログラムは貴重なものと言える。
 しかし、学校への広がりを期待する一方で、プログラムの普及を目的としたワークショップ(研修会)には、医療・福祉に関わる人材の参加者が多いという現状がある。また、学校以外のキャリア教育や民間企業などでの活用を念頭においての参加者も見られ、活用の場も多様化している。
 本ワークショップでも、実際の授業がどのようなものであるかを、様々な職域の方々に体験していただきたい。プログラムの内容を知ると共に、授業を受ける生徒がどのような感情を体験し、どのような気づきを得るかを知る機会になればと思う。そして、今回の体験が、本大会のテーマにあるように「人を結び チームを育て」、子どもたちの夢を育てる社会へとつながっていくことを期待している。同時に、学校への普及推進を進める協力者が多方面から増えていくことを願っている。今回のワークショップでは、指導案の中でもっとも基本となる「できごと・考え・気分をつかまえる」の単元を、指導案作成の中心メンバーと現職の教師によって行う。この指導案の基本的な考えやポイントを押さえながら、実際の教室での経験を活かした授業を実施したいと考えている。また、当日は参加人数などを考慮しながら、この単元の中から2回分の授業を行う予定である。

WS09 ワークショップ9

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第2会場[301 多目的ホール]

認知療法・認知行動療法スキルアップ:面接動画を用いワークショップ

[オーガナイザー]
 大野  裕(大野研究所)
 中川 敦夫(慶應義塾大学医学部)
 菊地 俊暁(慶應義塾大学医学部)

   

 認知行動療法を含む精神療法の勉強に不可欠と考えられる実際の面接場面への陪席やスーパービジョンの機会は、わが国ではごく限られている。そのために、精神療法を勉強しようとする多くの臨床家はテキストを読んで勉強をしてきた経緯がある。しかし、テキストをいくら読んでも文字から得られる情報だけでは、その内容の理解の仕方によっては思いがけない誤解が生じたり、いざ面接場面で実践しようとする際に不十分であったりすることも多い。特に、面接スキルの習得はテキストのみからでは難しい。このため、映像を通して面接を見ることは、実際に認知行動療法の面接に同席する機会のない臨床家にとってはスキルアップのための大きな力となるであろう。
 本ワークショップは、認知行動療法の面接動画を教材として、臨床家がつまずきやすいポイントを参加者とのディスカッションを通して理解を深め、認知行動療法のスキルアップを図っていくことを目指す。本ワークショップの動画教材としては、アメリカ精神医学会が精神科レジデント(専攻医/後期研修医)の教科書として作成した『認知行動療法トレーニングブック[第2版]』(医学書院, 2018)に収載されている動画を使用する。

ワークショップ概要
1.認知行動療法面接の勘所:Cognitive Therapy Rating Scale (CTRS)概説
2.認知行動療法の実践において臨床家がつまずきやすい4つのポイント:
  『認知行動療法トレーニングブック(第2版)』動画視聴&ディスカッション
    ①アジェンダ設定の難しさ
    ②思考記録に伴う困難
    ③適応的思考を導きだす難しさ
    ④活動スケジュールを作成する際の問題
3. 参加者の臨床経験から生まれた疑問をもとにしたディスカッション
4. 個人面接をインターネットでサポートする認知行動療法(blend CBT)活用法

参考図書
認知行動療法トレーニングブック[DVD/Web動画付] (第2版)
監訳:大野 裕/奥山 真司 医学書院

WS10 ワークショップ10

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第3会場[601 講義室1]

ストレスチェック・1次予防に役立つ簡易型CBT
-ストレスへの気づきと対処の秘訣!-

[オーガナイザー]
 宇都宮健輔(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター/
       産業医科大学精神医学教室)
 加藤 典子(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター)

<概要・特色>
 簡易型CBTの長所は、“より少ないマンパワーで効果のあるCBTを提供できること”です。つまり、産業場面において、「インターネット」や「ガイドブック」を使って効率的に実施することが特色となります。
 私たちは、ストレスチェックで活用できる“1次予防の簡易型CBTプログラム”を開発しました[平成28年度日本医療研究開発機構.障害者対策総合研究開発事業]。本プログラムの内容・テーマは、「認知行動スキルとは」「行動でこころを元気にする」「状況・気持ち・考えを整理する」「適応的思考を作り出す」「問題を上手に解決する」「気持ちや考えを上手に伝える」「まとめとふりかえり」の全7回のセッションから成り立っています[本プログラムは、うつ病認知療法・認知行動療法治療者用マニュマル(慶應義塾大学認知行動療法研究会)を参考にして検討・作成されています]。
<狙い・目的>
 本ワークショップの狙いは、⑴ 産業保健スタッフとして高ストレス従業員に簡易型CBTを実施できるようになること(保健指導のコツ)、⑵ 自分自身のストレスを上手に対処できるようになること(自己管理のコツ)、⑶ 職場メンタルヘルス対応の基本を理解すること(事例対応のコツ)の“3つのコツ”を学習・獲得することです。
<留意事項>
 当日は、認知行動療法活用サイト(ここトレ)を使って演習を行うため、スマートフォンまたはノートパソコン・iPadなどの機器を自分で用意・持参いただくことが必須となっております(会場内にフリーWi-Fi環境が整備されておりますが、ご自身のWi-Fi機器をお持ちの方は念のためご持参ください。お手数おかけしますが、何卒よろしくお願いいたします)。職域メンタルヘルスに関わる多くの方々にぜひとも参加・体験いただきたいと思います。

WS11 ワークショップ11

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第4会場[601 講義室3]

公認心理師に役立つ認知行動療法の理論と技法

[オーガナイザー]
 丹野 義彦(東京大学総合文化研究科)
 小堀  修(国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部)

 いよいよ国家資格の公認心理師が誕生した。公認心理師の活動において、認知行動療法が中心となっていくことは間違いない。認知行動療法は、治療効果のエビデンスが明確であり、治療手続きの透明性が高く、治療者のスキル評価の透明性も高いからである。公認心理師国家試験の内容をみても、従来の心理療法の設問は少ないのに対し、認知行動療法やエビデンス(科学的根拠)について多く出題された。5分野の実践現場においてもエビデンス重視の認知行動療法は必須である。実践5分野では、法制度や実務の詳しい知識が出題され、メンタルヘルス行政のオーガナイザーとして活躍してほしいという国からの期待がわかる。
 このように、心理療法やカウンセリングを中心とするこれまでの民間資格と、公認心理師とは全く違う職種である。公認心理師はこれまでと同じような活動をしているわけにはいかない。世界的にはメンタルヘルスの専門家には3つのパラダイムシフトがおこりつつある。1)精神分析療法から認知行動療法へ、2)エビデンスにもとづく実践、3)職業としての科学的臨床心理学の確立である。日本の公認心理師も世界標準に応じた活動が求められる。

 本ワークショップでは、公認心理師に求められる認知行動療法の理論と技法をまとめる。
 前半においては、認知行動療法トレーニングにおける基礎・基本をわかりやすく解説する。各段階でのポイントを解説し、5分野の現場での実践技能のレベルアップにつなげていく。

 ワークショップの後半では、認知行動療法のコンピテンシー (技能) を概観しながら、それぞれの技能を習得・改善していくためのエクササイズを実施する。一般的な認知行動療法のコンピテンシーを測定する場合は、改訂認知療法尺度 (CTS-R)が用いられる。この改訂認知療法尺度は、セッションのビデオを見ることで、スーパーバイザーなどが、そのセラピストの技能を評定するための尺度である。評価項目には、アジェンダ設定、対人的効果、宿題の設定など、14の項目が含まれている。

項目 1 - アジェンダ設定とアドヒランス
項目 2 - フィードバック
項目 3 - 協働関係
項目 4 - ペース配分と時間の効果的利用
項目 5 - 対人的効果
項目 6 - 適切な感情表現を引き出す
項目 7 - 重要な認知を引き出す
項目 8 - 行動を引き出す
項目 9 - 誘導に基づく発見
項目 10 - 概念的統合
項目 11 - 変化を促す方法論
項目 12 - 宿題の設定

 各項目を0-6点で評定し、合計点が36点 (50%) になることが、その訓練施設での合格と設定されることが多い。
 CTSRを用いた技能評価を学ぶことには、以下の利点がある。まず、クライアントの治癒や寛解、症状の低下の他に、セラピストとしての到達度目標を設定できる。これは、スーパーバイジーの指導をする際に、どの技能が優れており、どの技能を伸ばすと良いか話し合うことで、バイジーの到達度目標を概念化しやすくなることにもつながる。

WS12 ワークショップ12

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第5会場[705 講義室5]

統合失調症のCBT

[オーガナイザー]
 古村  健(国立病院機構東尾張病院)

 統合失調症への認知行動療法(以下、CBT)は、統合失調症を疾患単位として考えることをいったんやめて、陽性症状(つまり、主観的な病的体験)への認知心理学的研究を参考にしつつ、気分障害や不安障害へのCBTを応用することで発展した。本ワークショップでは、英国で有効性が実証されている幻聴と妄想へのCBTを中心に解説する。また、効果は限定的だといわれているが、陰性症状に対するCBTについても触れる予定である。各症状へのCBTの概要については以下を参照のこと。なお、本ワークショップの参加者は、医療・福祉領域で統合失調症当事者と関わる医師・看護師・心理職・作業療法士・精神保健福祉士を想定している。本ワークショップで獲得された知識から、統合失調症当事者との治療的対話のヒントが得られることを期待する。

●幻聴のCBTでは、特に幻声を治療対象とすることが多い。幻声に関連する感情や行動の問題が生じている場合に、認知的概念化に基づき、クライエントと協同して問題解決を図る技法がいくつも開発されている。幻声に関連する感情や行動には、「声の主が全知全能である」とする認知が最も大きな影響力をもつ。この認知をノーマライジング、対処戦略増強法、認知修正法などによって修正できれば、クライエントの苦痛や問題行動は大きく改善する。

●妄想のCBTでは、妄想を「その考えを有する人に苦痛をもたらすか、あるいはその人の機能を障害する強い信念で、周囲の状況から考えられる範囲を超えているもの」と定義する。介入前、あるいは介入中に行われるアセスメントでは、積極的傾聴を行いつつ、妄想の形式と内容、妄想の発生と持続過程を調べることが重要になる。また、思考を修正する介入段階では、CBTの多彩な技法が活用できる。

●陰性症状に対するCBTの効果は、現時点では限定的だと考えられている。陰性症状には複雑な要因が絡んでおり、生物-心理-社会的アセスメントを実施したうえで、個別性を考慮した見立て(ケースフォーミュレーション)が必要となる。また、統合失調症の消耗期では陰性症状が保護的な機能をもつこともあるため、十分な休息がとれるように環境調整と心理教育を行う必要がある。意欲低下の改善には、適切な目標設定と行動活性化が有効な場合もある。

<参考文献>
1) 古村健・石垣琢麿(2019)第5章 疾患・問題別の専門技法 3統合失調症.In
  下山晴彦編集(2019)公認心理師技法ガイド―臨床の場で役立つ実践のすべて―.
  文光堂.
2) デイビッド・ファウラー、フィリッパ・ガレティ、エリザベス・カイパース著
  石垣琢麿・丹野義彦監訳(2011)統合失調症を理解し支援するための認知行動療法
  (Challenge the CBT).金剛出版.
3) ポール・チャドウィック、マックス・バーチウッド、ピーター・トローワー著
   古村健・石垣琢麿訳(2012)妄想・幻声・パラノイアへの認知行動療法.
  星和書店.

WS13 ワークショップ13

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第6会場[706 講義室6]

ギャンブル障害の認知行動療法

[オーガナイザー]
 橋本  望(岡山県精神科医療センター)

 ギャンブル障害にはうつ病、不安障害、物質乱用やパーソナリティー障害、自殺傾向を伴うことが多く、精神医療現場における重要な疾患の一つである。ギャンブル障害は、アメリカ精神医学会の診断マニュアルの改訂により物質使用障害と同じカテゴリーに分類された。さらに我が国においてカジノ建設が現実のものになりつつあるため、その治療が一層注目されている。現在、我が国において認知行動療法の効果研究とガイドラインの作成が行われている。標準化された認知行動療法の普及は喫緊の課題である。
 世界的にみても、ギャンブル障害に認可されている薬剤は存在せず、最も標準的な治療は認知行動療法である。Nancy Petryらは、ギャンブル障害に対する認知行動療法を開発し、2006年に行った無作為比較試験で、認知行動療法がGAコントロール群と比較して、ギャンブルを減らすことに短期的、長期的な有益性があることを世界で初めて証明した。
 本ワークショップでは、演者が1年間、ロンドンにある英国立ギャンブルクリニック(National Problem Gambling Clinic)で学んだ認知行動療法について解説する。「刺激制御」、「トラッキングと自己報酬」、「報酬活動を増やす」、「ギャンブル欲求に対処する」、「ギャンブルへの引き金」、「行動の機能分析」、「ギャンブルに対する考え方を見直す」、「これからの計画」の全8つのテーマからなる。Nancy Petryの指導により作成された独自のテキストを用いており、1セッションは90分で集団と個人で提供される。知的障害やその他の併存疾患が重篤な方などは個人が勧められる。ホームワークが重要と考えられ、セッション間にもクライアントが学んだスキルが実生活で実践できるように励まされる。ワークショップ後半では、各セッションの解説に加え、重要なセッションの演習を交えながら、参加者が臨床ですぐに用いることができるスキルの獲得を目指す。

WS14 ワークショップ14

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第7会場[302-303 講義室]

スキーマ療法

[オーガナイザー]
 伊藤 絵美(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス)

 スキーマ療法とは,米国の臨床心理学者であるジェフリー・ヤングが1990年代に提唱した認知行動療法(CBT)の発展型である。ヤングは認知療法の提唱者アーロン・ベックのもとで訓練を受けたが,従来うつ病を対象としていた認知療法を,パーソナリティ障害,特に境界性パーソナリティ障害(BPD)に拡張して適用するために,認知の中でも特に深いレベルのスキーマ(認知構造)に焦点を当て,スキーマレベルの変容や修復を目指すアプローチとしてスキーマ療法を構築した。ここでいう「スキーマ」とは、人生早期に生き延びるために形成されたにもかかわらず、大人になってからかえってその人を生きづらくさせてしまう「早期不適応的スキーマ」のことである。

 スキーマ療法は,CBTを中心に,アタッチメント理論、力動的アプローチ,構成主義,ゲシュタルト療法,感情焦点化療法などを加味した,非常に統合的な理論と方法論を持つことにその特徴がある。2003年にはヤング自身が「スキーマ療法」のバイブルと呼ぶ大がかりなテキストが出版され(Young et al., 2003),またヨーロッパで治療効果研究が行われ,BPDなどに対する治療効果の高さがエビデンスとして示されたことによって,現在,スキーマ療法は世界的に注目の集まる心理療法のアプローチとなっている。

 演者は2003年のテキストを監訳すると同時に,CBTの仲間と共にスキーマ療法を学び,自ら体験し,また臨床の現場でクライアントと共にスキーマ療法を行う機会が少しずつ増えているが,そこで実感するのは,「きちんとお膳立てをして臨めば,スキーマ療法によって得られる効果はかなり高い」ということである。そしてここでいう「効果」とは,単に症状や問題が解消されるという意味ではなく,自分の生き方を振り返り,これまで抱えてきた生きづらさを理解し,それを乗り越えて新しい生き方を探索していく,という生き方レベルの効果である。

 本ワークショップでは,スキーマ療法の概要をお伝えし,スキーマ療法ならではの概念や方法について,受講者の方々がイメージできるよう,できるかぎり具体的にお伝えしたい。実際にはスキーマ療法の治療理論と治療モデル、早期不適応的スキーマ、新たに開発されたモードモデル、スキーマの変容のための諸技法について紹介する予定である。

参考文献 伊藤絵美(編著)スキーマ療法入門.星和書店.2013.

WS15 ワークショップ15

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第8会場[501 講義室1]

不安障害に対する認知行動療法

[オーガナイザー]
 堀越  勝(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター)

<不安症・不安障害と認知行動療法>
 不安は誰にでもある感情で、生活内で起こる様々な危険から身を守るために重要な役割を果たしているが、適切な反応としての不安が過剰な反応となった時に不安症(不安障害)を疑うことになる。不安症に対する介入法は様々であるが、実証的に介入の有効性を語るとすると、認知行動療法(CBT)は最も有力な介入候補とされる(e.g. Chambless & Ollendick, 2001)。最近行われた269以上の効果研究のメタ分析の結果では、CBTは不安障害、身体表現性障害 摂食障害、怒りのコントロール、一般的ストレス関連問題に対して有効であることが報告されている(Hofmann, Asnani, et, al. 2012)。また、米国心理学会の第12部会が提供している精神疾患別の有効な介入法のリストや内外の不安症の治療ガイドラインなどを参考にする限り(例:英国医療技術評価機構,2009)、不安症に対する介入は薬物療法またはCBTが選択されることになる。したがって、世界的には、不安障害を抱える患者、クライエントに対する介入を考える時には、通常CBTが治療選択の第一位に挙げられることになる。

<パニック障害、社交不安障害、強迫性障害へのベーシックCBT>
 さて、不安障害に対するCBTによる介入であるが、精神疾患によって選択されるフォーミュラーが幾分異なったり、介入方略の名称が異なったり、付属的に行われる事柄が異なるなどの多少の差異はあるものの、基本的には、①心理教育、②セルフモニタリング、③認知再構成、④曝露療法の4つのフォーミュラの組み合わせを通して行われる。主なアイデアとしては、避けている物、状況、また感情に向かい合うことで不安への耐性を強化すること、また不安障害の維持要素となる非現実的な考えの修正や非機能的な問題解決法の改善を図ることで、結果的に不安障害の症状の改善を見ることになる。
 本研修では不安症の中でもパニック障害、社交不安障害、そして強迫性障害の3つに焦点を絞り、それらに対する最もベーシックなCBTの実施方法について解説するとともに様々なワークなどを通して実践的に学習する。具体的には、それぞれの精神疾患に対する、①心理教育、②セルフモニタリングの方法、③認知への介入方法(認知再構成、マインドフルネス技法など)、また④行動への介入方法(現実曝露法、ビデオ曝露法、内部感覚曝露法、曝露反応妨害法など)について紹介すると共に、臨床現場で実施する際の介入の流れやコツなどについても言及する。
 基本的には厚労省による不安障害へのCBTマニュアルに準ずる形でCBTの介入法を学習していくことになる。本研修は実践的、参加型の研修となるため、グループ、または1対1によるロールプレイや様々なワークへの参加が必要となる。参加者による自発的な参加が求められる。

WS16 ワークショップ16

2019年9月1日(日)13:00-16:00
第9会場[502 講義室2]

認知症家族介護者に対する認知行動療法

[オーガナイザー]
 藤澤 大介(慶應義塾大学医学部医療安全管理部/精神・神経科)
 田島 美幸(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター)
 石川 博康(東京都立松沢病院看護部)
 原  祐子(西熊谷病院認知症疾患医療センター)
 色本  凉(慶應義塾大学医学部/桜ケ丘記念病院精神科)
 田村 法子(慶應義塾大学医学部精神-神経科)

【趣旨・狙い】
 認知症の介護は、患者さんの認知機能の低下(認知症の中核症状)、日常生活機能低下、Behavioral and Psychiatric Symptoms of Dementia(BPSD:周辺症状)、介護者にもたらされる時間的・経済的・社会的制約のために、家族介護者に大きな心理的・身体的な負荷を伴うことが多いものです。
 認知症の家族介護者に対しては、疾病教育、レスパイトの提供、行動マネジメント、集団療法などの複数の支援方法が報告されていますが、系統的レビューによれば、それらを単独で提供するよりも、心理教育、認知症患者さんとのコミュニケーションの指導やBPSDに対する行動マネジメント、介護者自身のストレスマネジメント等をくみあわせた複合的介入プログラムが、家族介護者の負担の軽減や心理状態の改善にもっとも効果が高いことがわかっています(Selwood et al. 2007, Adelman et al. 2014)。
 複合的介入プログラムの中でも、英国のStrategies for Relatives(START)プログラムは、家族介護者の抑うつ症状やQOLの有意な改善、医療経済効果が大規模ランダム化比較試験で実証されたプログラムです(Livingston et al. 2013, Knapp et al. 2013)。
 本邦でも、STARTプログラムを病院、介護福祉施設、訪問看護などの現場の実情に合わせて改編し、その効果の実証研究が行われつつあります。このワークショップは、そういった取り組みに携わる医療者・研究者を講師とし、日本版STARTプログラムの概要を講義、演習形式でお伝えします。
 認知症の心理教育の要点、応用行動分析に基づいた認知症の方に対する行動マネジメント・コミュニケーション支援、介護者自身に対する様々なストレスマネジメントを概説します。
 認知行動療法の初級者から受講可能です。

参考文献
・藤澤大介ほか.認知症家族介護者の認知行動療法:START(家族のための戦略)プログラム:基礎編.保健師ジャーナル75(2), 148-152, 2019
・石川博康ほか.認知症家族介護者の認知行動療法:START(家族のための戦略)プログラム:実践編.保健師ジャーナル2019
・田島美幸ほか.超高齢化社会における認知療法・認知行動療法による寄与の可能性:認知症の家族介護者のメンタルヘルスと認知療法・認知行動療法.認知療法研究12(1),2019

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第19回日本認知療法・認知行動療法学会